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論文

環境DNA論文 2020年1月

大型脊椎動物を対象とした環境DNA分析が2008年に発表されてから12年が経ちました。環境DNAに関する論文は500本ほど発表されています。そんな数の論文を今から網羅するのはかなりしんどいです。

そんなとき、その技術がまとめてあるサイト(日本語であればなお良し)があればとても便利だと思います。私が持っている環境DNAに関する知識や論文情報を提供することで、技術の発展と普及に貢献できればとの思いでこのブログを綴っています。@しばた

2020年1月の環境DNA論文はどんな感じ?

現在把握しているうち2020年1月にPublishされた論文は15本程度です。私は主に大型脊椎動物を対象とした論文に絞っているので、環境サンプルを用いた微生物の検出はほとんど含んでいません。過去を遡るのであれば、この論文のサポートファイル (edn321-sup-0001-TableS1.xlsx) か、 Taylor wilcoxさんのブログ が分かりやすくておすすめです。随時、ここでも紹介していきたいと思います。

環境DNA論文 2020/2 初旬現在(訳は直訳)

環境DNA分析を使用して絶滅危惧種である両側回遊性のリュウキュウアユの出現と個体数の評価

Using environmental DNA analysis to assess the occurrence and abundance of the endangered amphidromous fish Plecoglossus altivelis ryukyuensis
Akamatsu et al. 2020 (OA)

-要約-
リュウキュウアユ(Plecoglossus altivelis ryukyuensis)は両側回遊性(海と川を移動する)の絶滅危惧種で天然記念物です。直接捕獲は禁止されているため、個体数のモニタリングが困難となり保全計画の策定の障害となっています。リュウキュウアユの非侵襲的なモニタリング法を確立するためにミトコンドリアのND4領域を対象とした環境DNAの定量PCR用プライマープローブセットを開発して奄美大島の河川で調査しています。目視調査との比較では、シュノーケリングによって確認された個体数と環境DNAの濃度に正の相関関係が確認されています。

空間ネットワークの完全な生物多様性構造の解明–河川システムの例

Uncovering the complete biodiversity structure in spatial networks – the example of riverine systems
Altermatt et al.2020 (-)

淡水生物評価のバイオ指標としてのユスリカのより効率的な使用に向けた歩み:eDNAおよびその他の遺伝的ツールの活用

Steps towards a more efficient use of chironomids as bioindicators for freshwater bioassessment: Exploiting eDNA and other genetic tools
Czechowski et al.2020 (-)

環境DNAは季節的な変化と海洋コミュニティの潜在的な相互作用を明らかにする

Environmental DNA reveals seasonal shifts and potential interactions in a marine community
Djurhuus et al.2020 (OA)
-要約-
環境DNA分析によって複数の栄養段階やドメインに分類される生物の同時検出が可能になってきたころから、複雑な生物相互作用に関する情報が取得可能になっている。この研究では複数の遺伝子座のユニバーサルプライマーを使用して、湾内から18か月(2015~2016年)の海水サンプルの生物多様性調査を実施。結果として、微生物から哺乳類に至る663分類群(ファミリーより上位の分類群)が検出された。これらの時系列情報を含んだ多様性のデータからコミュニティ構成の変化を推測して、推定上の相互作用を明らかにすることで、環境特性との相関関係を特定した。環境DNA分析は海洋生態系の動態に関する詳細な除法と、生態系の変化を示唆して保全戦略を通知できる敏感な生物学的指標を特定できると結論付ける。

河川システムにおける環境DNAを使用したカラスガイ(イシガイ科)の検出

Detection of freshwater mussels (Unionidae) using environmental DNA in riverine systems
Gasparini et al.2020(OA)

Finding Crush:海洋河口のアオウミガメChelonia mydasを追跡するためのツールとしての環境DNA分析

Finding Crush: Environmental DNA Analysis as a Tool for Tracking the Green Sea Turtle Chelonia mydas in a Marine Estuary
Harper et al.2020 (OA)

野生ブタ(イノシシ)検出のための河川での環境DNA(eDNA)の使用

Use of environmental DNA (eDNA) in streams to detect feral swine (sus scrofa)
Hauger et al.2020 (OA)

環境DNAから市民科学まで:侵入種の早期発見のための新しいツール

From eDNA to citizen science: emerging tools for the early detection of invasive species
Larson et al.2020 (-)

陸棲哺乳類の多様性評価のための環境DNAとカメラトラップとの比較

A comparison of eDNA to camera trapping for assessment of terrestrial mammal diversity
Leempoel et al.2020(OA)

複数の遺伝的調査は両生類のメタ個体群に対する局所的および景観的要因の影響を明らかにする

Multiple lines of genetic inquiry reveal effects of local and landscape factors on an amphibian metapopulation
Parsley et al.2020 (-)

欧州の河川の魚に基づく生態学的評価の未来:従来のEU水枠組み指令に準拠した方法から環境DNAメタバーコーディングに基づくアプローチまで

The future of fish-based ecological assessment of European rivers: from traditional EU Water Framework Directive compliant methods to eDNA metabarcoding-based approaches
Pont et al.2020 (OA)

侵略的ヨーロッパミドリガニ(Carcinus maenas)の環境DNA検出のための特異的qPCRの分析検証と現場試験

Analytical validation and field testing of a specific qPCR assay for environmental DNA detection of invasive European green crab (Carcinus maenas)
Roux et al.2020 (OA)

亜熱帯性哺乳類のモニタリングのための環境DNAメタバーコーディング法の可能性の評価:ブラジルのアマゾンと大西洋岸森林における事例研究

Assessing the potential of environmental DNA metabarcoding for monitoring Neotropical mammals: a case study in the Amazon and Atlantic Forest, Brazil
Sales et al.2020 (-)

新規的な大容量水サンプリング法を用いた環境DNAの検出感度の増加

Increased eDNA detection sensitivity using a novel highvolumewater sampling method
Schabacker et al.2020 (OA)

ムラサキイガイの環境DNA評価の反復性と再現性のラウンドロビン評価

A round-robin evaluation of the repeatability and reproducibility of environmental DNA assays for dreissenid mussels
Sepulveda eta.2020 (OA)

海洋生態系におけるストライプバス(Morone saxatilis)の検出と定量化のための、実験室ベースとオンサイトでの環境DNA法によるメソコスム比較

A mesocosm comparison of laboratory-based and on-site eDNA solutions for detection and quantification of striped bass (Morone saxatilis) in marine ecosystems
Skinner etal.2020 (OA)

絶滅の危機に瀕する魚類のための局所的な環境DNAサンプリングと複数の検証法

Experimental assessment of optimal lotic eDNA sampling and assay multiplexing for a critically endangered fish
Wood etal.2020 (OA)

-要約-
環境DNAを使って希少種を検出、定量するためのサンプリングデザイン(採水場所や回数)は生物や環境DNAの空間的動態、野外条件に左右される。そこでSalmo salarを使ったケージ実験を使って環境DNAの検出率と環境DNA量が予測可能であり、発生源からの距離と非線形な関係性を持つことを解明する。結果1 : 環境DNAは発生源から遠ざかるごとに減衰するという通説とは対照的に、約70m下流までは増加した後に減少した。結果2 : 環境DNAの距離関数を河川での一定間隔サンプリングに適用すると最大で400m間隔まで、1匹の稚魚でも確実に検出できることを発見した。結果3 : ND5とCOIの2系列による定量PCRの結果が室内実験においてそれぞれ異なる検出率を提示する事を発見。

まとめ

ざっと挙げていきました。日本の研究者(山口大学の赤松先生)だと沖縄の固有種であるリュウキュウアユの種特異的検出・個体数との比較がありました。方法論的論文はサンプリングボリュームを増やした時の検出感度の比較やカメラトラップと環境DNAでの多様性の比較、密なサンプリングによる河川生態系の評価が挙げられます。また、個人的に面白いなと思うのは市民科学と環境DNAのコラボレーションやEUの生態学的・化学的状況モニタリング令の評価法に加えて環境DNAも使って魚類相を評価してみた論文です。一般市民を巻き込んだ取り組みと国絡みの方策に環境DNAを取り込んでいく試みがワクワクします。日本でももっとこういう取り組みがが進めばスムーズに技術発展すると思うのですがうまくはいかないものです。また更新します。
またここに挙がっている論文はまとめたエクセルファイルをアップロードします。

P.S.私は英語がすらすら読めるわけではないので、若干解釈が間違っている可能性があります。ご容赦ください。

画像はジャーナルのCC BYに従う形で、記事で紹介したオープンアクセスの論文中の画像または、自身で作成したものを使用しています。

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