非特異的増幅を最小化させた環境DNAによる淡水大型無脊椎動物の検出向上
Improved freshwater macroinvertebrate detection from eDNA through minimized non-target amplification
無脊椎動物つまり無顎類、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類を抜いた動物を網羅的に検出するための環境DNAユニバーサルプライマーの開発論文です。カニや貝類、昆虫などが挙げられます。
プレプリントサイトであるbioRxivに投稿されたところなので公式な論文ではありませんが、この投稿文の中核であるプライマーセットが変わることはないでしょうから紹介します。@しばた
※ Environmental DNA Jornalから査読論文が発表されていました。読んでみてください。(2020/12/30 最終更新)
要約
淡水生物のDNAメタバーコーディングは種を分けることの出来る高い分解能とデータベースの高い充実度合いからミトコンドリアのシトクロームC オキシダーゼ・サブユニットI(COI) の遺伝子領域に作られることが多いです。
しかし、これを水を中心とした環境DNAに適用すると、藻類や細菌などの非特異的な増幅がデータの多くを占めてしまい、結果的に標的分類群の配列がかなり少なくなってしまいます。
河川流域の大型無脊椎動物は重要なモニタリングすべき種が多く、環境DNAのような水からDNAを単離して多様性を効率的にとらえることが出来る方法が必要です。
この研究では、BF2/BR2プライマーセットを用いて幅広い分類群を同定した後、そのデータを使って大型底生動物用のリバースプライマー(EPTDr2n)を設計し、野外調査によって検証しました。
結果として、新しい大型底生動物用のプライマーセットは同時に検証した2つのプライマーセットと比較して、得られた対象分類群の配列の割合がはるかに高いことが分かった(新規プライマーセット >99%、その他 21.4%、41.25%)。また、検出された大型無脊椎動物も351分類群(その他、46種、170種)と大幅に多く、調査地付近で20年間のサンプリングで同定されている257種を大きく上回っていた。
Turbellariaのようないくつかの分類群は検出されなかったが、このプライマーセットは、今までのような非標的分類群によって対象となる分類群の配列が少なくなるといった、希釈の影響を回避することができ、アセスメントとモニタリングのための大規模無脊椎動物の検出を大幅に向上させることが示された。
メモ
- 採水・ろ過・抽出
- 3×1L / 1site
- 0.45μm CNフィルター
- DNA抽出はsalt-precipitation
- プライマーの作成はPrimerMiner v0.18, v0.21
- PCR
- 可変部位は142bp
- 1stPCR : Step-down PCRで4rep/1sample
- 2ndPCRは1stPCR産物を2repずつまとめて2rep
- Bioinformatic analysis
- データベースはBOLDとNCBI
- 大体 30000reads / 1sample くらいで検出
- 解析はJAMP v0.67を使用
- ≧97%の相同性でOTUを作成
- Read数が0.01% より少ないOTUは除去
- BOLDデータベースとの照合はBOLDiggerを使用
感想
底生生物用のプライマーを探していたところだったので、このプライマーセットは試してみる価値がありそうです。ただ、海外で使えても日本では全然使えないといったこともあるので、一度日本の底生生物の塩基配列を一気に落としてきて検証してみたいと思います。
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