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論文

甲殻類の網羅的検出系:MiDecaの開発

十脚甲殻類の環境DNAメタバーコーディングのための新たなPCRプライマーセットの開発

Development of a new set of PCR primers for eDNA metabarcoding decapod crustaceans

魚類、哺乳類を網羅的に検出するプライマーセットが開発され、次はザリガニやエビ、カニなどを含む十脚甲殻類を検出するためのユニバーサルなプライマーの開発です。商業的にも重要な種が多い分類群になります。

全体的にどの種もあまりDNAを放出しそうな見た目をしていませんが、Larson et al.2017(ザリガニ)、Wu et al.2018(スジエビ)に適用され、季節的なモニタリングもなされています。

今回開発されたMiDeca-F/R(マイデカ)はミトコンドリアDNAの16s rRNA領域上に設計されています。

作成時に考慮された点として、
1)環境DNAは断片化しやすいため200bp未満の増幅産物長であること。
2)増幅する領域は種ごとに十分な塩基配列の差異があること。
3)標的種は保存的領域(20~30bp)が種を見分ける領域の両端に存在していること
が挙げられます。

ニホンザリガニやテナガエビ、イセエビなどのNCBIに登録されている実際の配列

MiDeca-F/Rの検証は組織抽出DNAと実際の海水サンプルを使って検証しています。

千葉県の房総半島
採水風景

採水は10%ブリーチでリンスした8Lバケツを使って10回投げて行い、50mLテルモシリンジと0.45μm口径のステリべクスを使って合計1Lをろ過しています。その後、RNAlaterを1.6mLステリべクスの中に添加することでDNAの分解を抑制しています。

RNAlaterの使用はSIGMA-ALDRICHの製品情報をよく読んで行いましょう。

ステリべクスからの抽出はMiya et al.2016を改変したプロトコルで行っています。今だと環境DNAマニュアルの通りでいいと思います。大体以下のような感じです。

ステリべクスからのDNAの抽出

ライブラリの調整は以下の試薬構成と温度サイクルで行っています。

1st PCR 12μLn = 1備考
KAPA HiFi Hot-Start ReadyMix6μL
MiDeca Primer F (5μM)1.4μL100μM TE溶解液で納品してもらって20倍希釈して使用すると楽
MiDeca Primer R (5μM)1.4μL100μM TE溶解液で納品してもらって20倍希釈して使用すると楽
脱イオン精製水1.2μLMilliQ水やPCRグレード水でも可
DNAサンプル2μL
1サンプルにつき8繰り返し

 

1st PCR

温度 : 時間 サイクル
DNAの初期変性 95℃: 3分 1

DNAの変性 (2本鎖→1本鎖)

98℃ : 20秒 38
プライマーのアニーリング 60℃ : 15秒

伸長反応 (1本鎖→2本鎖)

72℃ : 15秒
最終伸長反応 72℃ : 5分 1
2nd PCR  15μL n = 1 備考
KAPA HiFi Hot-Start ReadyMix 6μL  
MiDeca Primer F (5μM) 1.4μL 100μM TE溶解液で納品してもらって20倍希釈して使用すると楽
MiDeca Primer R (5μM) 1.4μL 100μM TE溶解液で納品してもらって20倍希釈して使用すると楽
脱イオン精製水 1.2μL MilliQ水やPCRグレード水でも可
DNAサンプル 2μL  
1サンプルにつき8繰り返し

 

2nd PCR 温度 : 時間 サイクル
DNAの初期変性 95℃: 3分 1

DNAの変性 (2本鎖→1本鎖)

98℃ : 20秒 12

プライマーのアニーリングと伸長反応

(shuttle PCR)

72℃ : 15秒
最終伸長反応 72℃ : 5分 1

2nd PCR後は電気泳動によるターゲットサイズDNAのセレクトと確認、濃度調整を経てMiseq 2×150 PEで配列の決定を行っています。

解析はUSEARCH v10.0.240を用いて以下のステップで行っています。USEARCHはNGS出力されたデータを整えて、データベースの登録配列を行うことの出来る解析パイプラインだと思ってください。Web版のMiFish piplelineにも採用されています。

Usearchによる解析パイプライン概要

組織によるプライマーの確認の結果、MiDeca primerは65科 186属 250種を検出することに成功しています。

野外水からは98%より高い相同性で分子同定すると34種の甲殻類を検出することが出来ました。また、80%以上で98%以下では10種が同定されていました。また、その中の種の一部は、生息が未確認の種も含まれていたそうです。

組織片での確認で250種の増幅が確認されているようですが、日本に生息する十脚目のは1054種でそれは全体の36%に当たるそうです。(世界では2.890種 950属 147科)

魚類と比べると、まだまだどの分類群もリファレンスとなるデータベースの充実度合いが十分でない事から、今までよりも一層、分類学的作業を進めていく必要があると言えます。

日本で作成されたユニバーサルプライマーは今だとMiFish, MiDeca, MiMammal, MiBird, Hynobius_12sなどがあります。環境DNAによる生物相モニタリングをこれから進めていくのであれば、これからはその領域を中心にデータベースの拡充を進めていってもいいのではないかなと個人的には思います。@しばた

※1st PCRの温度サイクル数が間違っていたので修正しました(12→38)。
2020-12-24

画像はジャーナルのCC BYに従う形で、記事で紹介したオープンアクセスの論文中の画像または、自身で作成したものを使用しています。。

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しばた
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