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論文

哺乳類の網羅的検出系:MiMammalの開発

(読めない人は プレプリント を参照ください)

環境DNAは森林の池の水から陸生哺乳類の検出を可能にする

Environmental DNA enables detection of terrestrial mammals from forest pond water

水を媒体としてサンプリングされることが多い環境DNAを使って陸域に多くが生息する哺乳類の種組成を把握しようという試みです。
多くの陸生哺乳類は水を必要とし、多くの場合森の中の水場や河川がその補給場所になっています。この性質を利用して、森林内のため池の水を採取して環境DNAメタバーコーディングしています。

哺乳類用の環境DNAメタバーコーディングプライマーであるMiMammal-U/E/B(マイマンマル)はNCBI(National Center for Biotechnology Information)に登録されている哺乳類の配列を使ってミトコンドリアDNAの12s rRNA領域に設計されています。リバース側はMiFish-Uのリバースプライマーを流用しており、やはりこの部分は幅広い分類群において、生命活動に関わるかなり重要な遺伝子領域なのかもしれません。

プライマーは種組成が分かっている動物園の水場利用して、適応可能性の検証を行っています。野外での適用は北海道北部の2つのため池から500mLの水サンプルを5つ収集して分析しています。シカ、ハタネズミ、アライグマ、トガリネズミなど各サンプリングエリアに共通する複数の種の哺乳類が検出されました。今まで多くの環境DNAメタバーコーディングによるアプローチが水生/半水棲システムに限定されていましたが、この研究結果は森林哺乳類の生物多様性調査でもこの方法が有望であることを示しています。

 また、この方法を使ってボルネオ島の塩場を訪れる哺乳類の検出を行なった研究例もあります。

ボルネオ島の天然の塩場で環境DNAによって検出される熱帯林の哺乳類

Tropical-forest mammals as detected by environmental DNA at natural saltlicks in Borneo

塩場には多くの陸生哺乳類が植物から摂取できないナトリウム分を補給しにやってきます。塩場は山の中にある水溜りのような規模感なので水量はかなり少ないです。そこから100-150mlを採水・濾過して分析しています。
検出種数は全体で10種程度ですが、オランウータンやバンテン、アジアゾウ、センザンコウなどの低密度だが生息する絶滅危惧種の検出にも成功しています。

MiMammalプライマーは海外でも適用され始めており、アマゾンでの哺乳類相調査やかなり広域の哺乳類相調査に適用されています。

亜熱帯性哺乳類モニタリングのための環境DNAメタバーコーディングの可能性の評価:ブラジルのアマゾンと大西洋岸森林における事例研究

Assessing the potential of environmental DNA metabarcoding for monitoring Neotropical mammals: a case study in the Amazon and Atlantic Forest, Brazil

哺乳類の1/4は絶滅危機に晒されていると言われており、様々な生態系の長期的なモニタリングに適用できる方法が必要とされています。環境DNAの研究のうち哺乳類を対象としているのは8%程度で、Ushio et al.2017, Harper et al.2019, Sales et al.2019aがありますが、まだまだ技術としては確立されていない状態です。
アマゾンを含む複数の地点で水は500mL×3繰り返し、堆積物は25mL×3繰り返でサンプリングを行いMiMammalプライマーを用いてメタバーコーディングを実施しています。
結果として、108サンプルから14科の哺乳類が検出され、13種が97%の相同性で種レベルまで同定されました。アマゾンでは3種の絶滅危惧種が検出されました。

哺乳類を釣る:河川生態系に由来する環境DNAを使用した陸上および半水域の景観レベルのモニタリング

Fishing for mammals: Landscape-level monitoring of terrestrial and semi-aquatic communities using eDNA from riverine systems

環境DNAは海域や淡水域の生態系モニタリングに革新を起こしているが、半水棲や陸棲の哺乳類においてはまだ適用例が数例しかありません。この研究では、初めに流水域で一般的な調査手法と水・堆積物に由来する環境DNAのメタバーコーディングよって推定された哺乳類相の比較をしました。

水と堆積物由来のサンプルの比較

次に、占有モデルを適用した環境DNAメタバーコーディングの検出効率を従来の非侵襲的な調査手法(糞便調査?やカメラトラップ)と比較しています。

占有モデルを用いて各手法の検出確率を推定

結果として、記録のある種の大部分を環境DNAは検出し、ハタネズミ、ハタネズミ、アカシカなどの一部の種において、環境DNAの検出確率が95%以上に達する3~6回の採水繰り返しは、3~5回の糞便調査、5~30週間の単一カメラトラップに相当するといった結果も得られています。

まとめ

陸上に生息する哺乳類の多様性を水に接触しないと生存できないという性質を利用して水から推定するというアプローチが全開で実施され始めています。
研究で必要とされる結果と実務で必要とされる結果の感覚はかなり異なりますが、カメラトラップや目視観察と併用することでかなり有用な方法になりえると思います。ヒトのコンタミが気になるところではありますが、ブロッキングプライマーなどである程度減らすことはできると思います。
今後の哺乳類を環境DNAで検出する研究に注目です。

画像はジャーナルのCC BYに従う形で、記事で紹介したオープンアクセスの論文中の画像または、自身で作成したものを使用しています。

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